千葉地方裁判所木更津支部 事件番号不詳 判決
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は被告合資会社木村国一郎商店を解散する訴訟費用は被告会社の負担とする旨の判決を求めその請求原因として被告会社は昭和八年九月一日資本金二万五千円無限責任社員木村国一郎及木村勝蔵、有限責任社員原告及木村静子と定めて創立された合資会社で砂糖、小麦粉、飴、雑穀罐詰、荒物、海産物、紙、畳表類及之に附帯する商品の販売をその営業目的としているものである。而て木村国一郎の父木村清三郎(原告の先夫)は青物販売業者(八百屋)なりしが多額の負債を残したまま大正五年二月二十九日国一郎十才の頃死亡し、原告は非常に難渋したが国一郎の十二、三才のとき訴外木村勝蔵と婚姻した。勝蔵は原告方で従前通り青物販売業に従事し粒々辛苦の上木村家の家運を挽回し現に国一郎の出資名義たる不動産も抵当に入つていたのを勝蔵が債務を弁済して抵当権を抹消した。而して木村勝蔵と原告との間には繁夫、芳夫、敏夫の三名の子を挙げたが国一郎も木村勝蔵の疵護の下に千葉商業学校を卒業するに至り昭和七年十月二十七日静子を同人の妻に迎えしめた。斯くて木村家は漸次順調となり大正十三年頃青物商を廃して木村商店として、荒物、乾物、雑穀、和洋紙、畳表、小麦粉、砂糖等の販売を営むこととなり営業益々隆昌となつたので昭和八年九月一日木村勝蔵が前記肩書地に被告会社を設立し木村国一郎を被告会社の無限責任社員とし木村勝蔵に協力せしめることになつた。斯くして平和裡に経過したが前記繁夫、芳夫、敏夫が相次て応召し終戦と共に復員したため自活の方法として昭和二十二年十月二十五日木村商事株式会社を設立したところ国一郎は之を不快とし爾後次第に原告等に反目の態度に出て木村勝蔵を罵詈誹謗し原告に対しても暴行を敢えてするに至り原告は難渋していたが、国一郎は昭和二十三年二月十六日その長男たる泰也の親権者として社員権を行使し原告の反対を押切り感情を以て木村勝蔵の社員除名の決議を為すに至つた。被告会社は元来親子四人の同族会社であつたのに事終に茲に至つては今後円満に相協力して被告会社の隆昌を祈念すること絶対不可能なる故原告は商法第百十二条第一項に従い被告会社解散の判決を求むるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求棄却の判決を求め答弁として原告主張事実中被告会社が原告主張の如き各出資者により組織せられその主張の如き営業種目を営業目的として昭和八年九月一日設立された合資会社なること木村国一郎の父木村清三郎が青物販売業者なりしが大正五年二月二十九日死亡し原告と木村勝蔵と入夫婚姻をし繁夫、芳夫、敏夫の三人の子を挙げたこと右繁夫等が応召し復員した後昭和二十二年十月二十五日木村商事株式会社が設立せられたこと及被告会社が昭和二十三年二月十六日木村勝蔵に商法第百四十七条第八十六条第一項の違反行為ありとして同人の除名決議をしたことは孰れも之を認めるがその余の事実は否認する。本訴は被告会社が別訴で木村勝蔵に対し合資会社代表社員除名宣言請求の訴を提起しているためその妻原告がその訴訟の牽制策として本訴の提起に及んだものでその動機頗る不純である。
尚原告及訴外木村勝蔵並びに繁夫、芳夫、敏夫等は当時統制品にして被告会社の営業商品と同種の商品を窃かに暴利を得て販売し不当に得た利得金で昭和二十二年十月二十五日被告会社の隣地に別に資本金十九万五千円の木村商事株式会社を設立し木村勝蔵はその代表取締役となり被告会社の営業種目たるマツチ、乳製品、砂糖等の営業を継続して為し右商事会社の経営のみに奔走しその為めに被告会社の営業は大いに不振に陥つた。当時右統制品を取扱う商店はその店の資格と信用を高める一種の特権とも謂うべきものにして被告会社は是等の特権に基いて営業をしていたに拘らず原告及其の夫勝蔵等の不正行為のため莫大の損失を蒙むるに至り特に勝蔵においては商法第百四十七条第八十六条第一項所定の違反行為ありしものなる故同人を被告会社社員より除名した次第で現在何等被告会社を解散すべき已むを得ざる事由は存在しない原告は唯だ単に復讐心を以て別途会社の繁栄を計らんがため被告会社の解散を求むるに過ぎないもので本訴は全く不当であると述べた。(立証省略)
理由
本件に於て被告会社が原告主張の如き各出資者により組織されその主張の如き商品の販売を営業目的として昭和八年九月一日設立された合資会社なること、木村国一郎の父木村清三郎が青物販売業者なりしが大正五年二月二十九日死亡しその後原告と木村勝蔵とが入夫婚姻をし繁夫、芳夫、敏夫の三人の子を挙げたこと、右繁夫等が応召、復員した後昭和二十二年十月二十五日木村商事株式会社が設立されたこと及被告会社が昭和二十三年二月十六日木村勝蔵に商法第百四十七条第八十六条第一項第二号乃至第五号所定の違反行為ありとして同人の除名決議を為したことは孰れも当事者間に争のないところである。
而して成立に争のない甲第一、二、四号証並に証人木村勝蔵及び原告本人訊問の結果に徴すれば訴外木村勝蔵は被告会社代表社員木村国一郎の先代木村清三郎が大正五年二月二十九日死亡後大正十年四月十九日原告と入夫婚姻し先代の営業を引継き債務等を整理し逼迫せる木村家の財政を建直し且つ木村国一郎の継父としてよく国一郎を輔育し国一郎をして千葉商業学校を卒業させ嫁を迎えしめ木村家の家運を隆昌ならしむるに努力し昭和八年九月一日に右木村勝蔵夫妻及木村国一郎夫妻の同族により被告会社を設立するに至つたが右会社設立に際しても木村勝蔵が大いに尽力しその成立を見るに至つたことを認むるに足り右国一郎は右勝蔵に相当の恩顧を蒙つたことを窺知し得らるるところにして斯くして被告会社成立後昭和二十年の終戦後頃迄引継き被告会社社員は互に和衷協同し平和裡にその経営を続けたるものなることを認めることができる。然るに成立に争のない甲第三号証同第五号証及び証人木村繁夫の証言によりその成立を認め得べき乙第一号証の一乃至四同第二号証の一乃至十五及び証人木村勝蔵、木村繁夫、被告会社代表社員木村国一郎の供述の結果を彼是れ綜合すれば訴外木村勝蔵と原告との子繁夫、芳夫、敏夫等が終戦後復員するに及び木村勝蔵と木村国一郎との間には兎角感情の融和を欠くに至り殊に昭和二十二年十月二十五日右勝蔵が右三名の子等と共に被告会社の隣地に被告会社販売の営業種目と同様種目商品の販売を目的とする木村商事株式会社を設立し右勝蔵がその代表取締役となり同会社経営に専念すると共に得意先に対し購入勧誘の葉書(乙第一号証の一乃至四)或は請求書(乙第二号証の一乃至十五)を送附して被告会社の経営を妨害すると共にその代表社員たる義務に違背する行為を為すに及び益々右勝蔵と国一郎との感情は相融和するに至らず終に被告会社は昭和二十三年二月十五日木村勝蔵に商法第百四十七条第八十六条第一項第二号乃至第五号の所定の違反行為ありとして同人を除く他の過半数の社員の一致により右勝蔵の除名決議を為したことが認められる。
仍て被告会社に果して之を解散すべき已むを得ざる事由が存在するや否やの点を審究するに被告代表社員と木村勝蔵との感情の不融和、不和を来たした原因は右勝蔵に於て商法第百四十七条第八十六条第一項に規定する競争業禁止違反の行為又は代表社員として尽すべき重要義務違背の行為をなしたるために因るものなること前掲示の各証拠により之を認め得らるるところであつて商法第百十二条は已むことを得ざる事由あるときは会社解散の請求を為し得べき旨を規定して居るけれども右已むことを得ざる事由は絶対に会社の存続を容れないものではなく時に便法として解散に代え或社員を除名し以つて会社の禍根を絶ち得る場合には尚之を存続せしめ得べきものと解するを相当とする。而して右木村勝蔵には別訴事件の判決に於てすでに右被告会社社員より除名する旨の宣言ありたること当裁判所に顕著なる事実であるから本件に於て原告の主張する被告会社経営上の右勝蔵との不和なる禍根はすでに取除かれ爾後は爾余の社員により円満平和裡にその経営を続け得らるるものと認むべく今や被告会社には会社を解散すべき已むことを得ざる事由は何等存在せざるに帰したものと謂わなければならない。然らば原告の本訴解散請求はその理由のないものであるから之を失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。(昭和二九年一二月八日 千葉地方裁判所木更津支部)